先の福岡国際マラソン、近年のランニングブームや箱根駅伝の人気化によって(箱根で活躍した選手の出場が多かったこともあって)事前からとても注目度が高かった。
そして実際のレースでは事前の注目以上に示唆に富んだ内容だったと思う。
あれこれ考えるのが比較的好きなので、ここにまとめてみようと思う。
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ソンドレ・モーエン、非アフリカ系選手で初の2時間5分台
ソンドレ・モーエン、僕は初めて聞く名前。
この福岡国際で日本ではかなり有名になったんだと思う(もちろん世界的にも。)と同時に、彼のトレーニングコーチ、カノーバという人物も日本ではとても有名になったんだと思う。
なにせ、ソンドレ・モーエンのトレーニングその①【ハーフ59:48】というサイトが出回ったから。それもそのはず、自己ベスト2時間10分台だった白人選手(リオ五輪19位)がいきなり非アフリカ系選手初の2時間5分台でフルマラソンを走り切ったのだから。記録向上を目指す市民アスリートはエリートの練習内容に興味津々だ。もちそんその全てが自分にとって参考になるわけではないとわかっていても。
個人的に参考になると思った点は以下の通り。
まずは精神論から。
精神的な限界は作らない
アフリカ選手の優位性は遺伝によるものではなく、練習の雰囲気やトレーニング環境の違いからだと。ケニア人のように高地に住み、起伏に富んだ環境でトレーニングをし、身体の反応を重視して、そう言った環境を快適と思うことが大切なのだと。
マラソンに限らず何かを成し遂げようとしている過程で”精神的な限界を作らない”ことはとても大切だと感じつつも、実際にこういったコーチがまず最初に選手に伝えたことで、改めてその重要性に気付かされた。
トレーニングとは“ある種の刺激に対する身体の答え”
ここで言う刺激とは”量”と”質(つまり強度)”らしい。
年間を通していかに高い質のポイント練習を増やせるか。身体の答えと表現していることの1つは、如何に故障せず強度を高めた練習の量をこなせるか、ということだと思う。身体の答えを探るために、カノーバは選手に自ら練習データの分析をすることを求めている。アフリカ選手はこれが苦手な一方、欧米人は教育の成果か分析することに抵抗がなく良いそうだ。
これは社会人アスリートである僕らにも全く同じことが言える。特に時間の制約がある社会人アスリートなら量を追求することが難しいが故に、より効率的に質を求めていかなければいけない。パフォーマンス向上を目的にするなら、目的意識を持たずにダラダラと距離だけ稼ぐような走りは非常に勿体無い練習になりそうだ。
器具を使ったウエイトトレーニング、ストレッチは行わず、反応性を大切にする
カノーバは器具を使った筋トレは行わない。この辺り、後述の大迫傑が所属するオレゴン・プロジェクトとは異なるアプローチを取っている。
一方、コア(体幹)と反応性を鍛えるジムセッションを行なっているとのこと。
反応性とは、おそらくある刺激に対する正しい筋肉の反応だったり反応速度だったりを鍛えるトレーニングのことだと思う。
この反応性を大切にする結果、静的ストレッチは全く行わないようだ。
カノーバ曰く“多くのストレッチは時間の無駄というだけでなく時にはマイナスに働くこともある”。
近年日本でも反ストレッチの論調は増えてきているが、欧米では10年程度前から静的ストレッチ不要論は主流なので、メインストリームに沿った内容と言える。
一方、モビリティを高める動的ストレッチは取り入れている模様。上の反応性にも繋がるものなのだと解釈。
中距離のスピード強化が練習の主目的
モーエンの練習内容を見ると、ロングインターバルが多い。ロング走に力を入れているようにはあまり見えない。中距離のスピード強化が第一の目的なのだろう。
カノーバがモーエンを指導するようになった1年間でモーエンがマラソンの距離において1kmあたり10〜15秒程度余裕を持って走れるようになったことにとても満足しているよう。
5kmのタイムからフルマラソンのタイムを計算して算出することには、体格やランニングエコノミーの点からそれほど重要視しているようには見えないし、例えば5000mの結果を追い求めることは他の種目での結果を犠牲にすると言っているが、フルマラソンにおいても中距離のスピードの重要性は十分に伝わってくる。質の高いポイント練をいかにこなせるか、ここと繋がってくるだろう。
走りも考え方も日本人離れした大迫傑
今年の4月のボストンマラソン、2時間5分30秒以内の記録をもつ選手が9人参加するこの大会でマラソンデビューの大迫傑が3位に入った。
この結果があったから福岡国際マラソン前から大迫傑の注目度は高かった。
もしくは、マラソンファンからするともっと前から大迫傑のポテンシャルを感じていたに違いない。
大迫傑は、打倒アフリカ勢をコンセプトに掲げたナイキのオレゴン・プロジェクトの10人の精鋭の1人だ。日本人としてはもちろんアジア人としても唯一の存在。この10人にはモハメド・ファラーなど世界屈指のランナーばかり。
もっと前に遡ると、学生時代から他の学生とは違っていた。「駅伝には興味がない」と発言したり、実際に4年生の時は箱根駅伝の直前までアメリカで合宿(特別駅伝のための合宿ではない。)し、学生時代から世界を見据えていた。
どこかサッカーの中田英寿と重なる部分があると感じている。個人的にはとても好きだ。
ナイキのオレゴンプロジェクトは、ランニング界では最先端かつ今までの枠に捉われない技術やトレーニング法が採用されている(と言われている)。実際の練習内容のほとんどは公開されていない。
ただし、ナイキの最新シューズ(zoomflyやvaporfly)を見てもこれまでの枠に捉われていないことは一目瞭然。ナイキは“#厚さは速さだ”なんて言っているように、スピードシューズで常識だった薄型ではなくかなり厚いソールが採用されているし、ドロップもとても大きい。
またオレゴンプロジェクトでは、積極的に(?)ウエイトトレーニングが採用されているらしい。なにやらマラソンにおいて赤筋系からくるエネルギー生成回路が重要な役割をするのだとか。
と、事前から大迫傑の注目度は高かったわけだけど、実際の走りはさらにすごかった。
結果からしても日本人で唯一世界と戦えていたし、記録も2時間7分台と速い。(と言っても、順位は3位だし、記録も何か新記録を塗り替えたわけではない。)
でも僕が何よりもすごいなと思ったのはランニングフォームの美しさ。話題のフォアフット走法であることはもちろんだけど、肩甲骨の動きや体幹・骨盤の動きが連動していて体全体からパワーを生み出し推進力に変えているようだった。
優勝したモーエンよりもフォームが断然きれいだと思ってしまった。
まだマラソン2戦目で25歳、独自の哲学と世界最先端の練習環境をもつ日本人がどこまで進化するのかとても楽しみだ。
※とうてい真似してできるようなレベルでないので、一ファンとして応援していきます。
この動画を見ると大迫の考え方がよくわかる。おすすめ。
瀬古イズムが不安
まずはこの動画を見ていただきたい。
3分37秒あたりから。
箱根のスター青学大の神野大地くんとレジェンド瀬古さんの対談(?)
瀬古「マラソンはスポーツの中でも一番非科学的な種目」「超アナログスポーツ」
と神野大地くんにアドバイス。
モーエンと大迫の練習やコーチングスタイルを見てしまうと、そして福岡国際の結果を見てしまうと、日本のマラソンの未来に対して強烈な不安感が生まれてくるのは僕だけではないだろう。
1位〜3位をナイキシューズが席巻
陸王じゃないけど、今回の福岡国際マラソンはナイキにとってはとてつもない宣伝効果だったに違いない。
上位3名のシューズがNIKEのzoomflyかvaporflyだったんだから。
優勝 モーエン vaporfly
2位 キプロティク vaporfly
※一番先頭、2番がキプロティク
3位 大迫傑 zoomfly
zoomflyはvaporflyの耐久性をあげたバージョンかな?
陸王の世界では、1~3位を独占したわけだから、しかも日本の大会で日本人が自社のシューズを履いてヒーローになったのだから、メーカー的に宣伝効果抜群というわけだね。
実際にナイキのズームフライとヴェイパーフライは日本でとても売れそうな予感。
でも、この厚底!今までのエリートモデルのランニングシューズとは確実に一線を画している。しかもこのドロップの大きさ。
結果が出ている以上、効果はあるんでしょうが、今までソールが薄くドロップが小さいシューズを履いていた僕からするといきなり変えるのはかなりリスクがあると思い、とりあえず静観。
2大メーカーによるランニングシューズバトル
ランニングシューズの世界的な2大メーカーといえば、ナイキとアディダス。(今回の福岡国際とは関係ない。)
今、この2大メーカーが競い合っているのは“人類初の2時間切り”。
ナイキはこのvaporflyで2時間切り、ナイキ的には“breaking2”を狙っている。
一方のアディダスは、まだ市販されていないがadizero sub2をすでにエリート選手に提供し、2017年の東京マラソンではキプサングがadizero sub2を履いて2時間3分38秒で優勝している。
アディゼロのサブ2は日本人からするとadhizero takumi senのboostをboost lightにしただけじゃあ?と思うほど大きな変化は見た目からは感じない。
※adizeroの匠シリーズは日本のみの販売。
その点、ナイキのズームフライはその形からしてもかなり特異で革新性を感じる。
どちらが正しいのか、は個人個人合う合わないがあるのえ一概に言えなし、どちらが先に2時間切りを達成するのかはわからない。それにシューズだけの要因でサブ2が達成されるのかもわからない。
なんにせよ、リアルタイムで陸王が放送されている中でとても興味深い動向であることは間違いない。
以上、今回の福岡国際マラソンから感じたこと。
最後まで読んでくれた方、ありがとうございます。
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